猫恋譚(創作)

 とても楽しい猫文学に触れたことをきっかけに、猫の話を勢いで書きました。30分もかけてない1200字以内小説ですが、お楽しみください。やる気ない就活生と人語を喋る猫のお話です。

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 「お前、就活はいいのかよ」

 「猫のくせによくそんな単語知ってるね」

 「ふん、猫なめんじゃねぇぞ」

 今日は休みだから昼過ぎに起きようと思っていたのに、一ヶ月前から私のアパートに住みついている猫に叩き起こされた。

 彼は、私がアルバイトから帰ってくると、「ここが俺の家です」とばかりに寛いでいた。そしてこう言った。「おう、今日から世話になるぜ。よろしくな」

 なぜ私がお前の世話をしなくてはならないのか。というか、何で人の言葉を操れるのだ。

 もしや化け猫か? 尻尾を見たが、二又に分かれてはない。しかし、ただの猫ではないのは確かだ。その時私は、「出てけ」と言うはずだった。そう言おうと思ったのだ。しかし口をついて出た言葉は、

 「えーと……ご飯は何にしますか」

 その瞬間から、私と猫の上下関係は決まった。いそいそと猫の飯を作る家主の私と、茶の間でラジオを聴く猫(テレビは置いてない)。中々に屈辱的だ。私の友達に評判がとても良いのがまた腹立たしい。

 「きゃあ、可愛い」

 「洋猫が混じってるのかな? 美人さんだねぇ」

 等と言われて、猫の方も満更でもない顔をしている。

 くそ、リア充が! 勝手に上り込んできた居候のくせに、このニートめ!

 しかし、このままでは私もニートになってしまいそうだ。

 就活がちっともうまく行かない。最近では書類審査すら通らない。さらにまずいな、と思うのは、うまく行ってないのに辛くないところだ。就活がうまく行かなくて辛いというのは、社会から必要とされていないと感じることから来るそうだ。私は、少なくとも猫からは必要とされている。炊事係としか思われてないだろうけど。

 だが、そんな私を見透かしてか、次第に猫は私に「就活はいいのか?」とプレッシャーをかけるようになってきた。その度にはぐらかそうとするのだが、誤魔化される猫ではない。

 「最近、どっか受けてんのか?」

 「とりあえず、履歴書を送ってるのが二社。返事待ち」

 「ふうん」

 ダメだろうな、と今から思っている。それでも、完全に就活をやめることはできない。完全に諦めてしまったら、自分の中で何かが終わってしまいそうで怖い。社会から必要とされていないと、また思い知らされるとしても。

 「安心してよ、あんたの飯代と医療費くらいはどうにかするからさ」

 猫は少し黙り、私の額にキスをした。そして身を翻し、窓から出て行った。急いで追いかけたが、見つからなかった。急いで友達に連絡して、迷い猫のポスターを作ったり警察に行ったりしたが、効果は全くない。

 翌月、私は唐突に就職先が見つかった。それまでと同じ就活をしていたのに、どうしたことだろう。しかし、内定先の社員とすれ違った時に、分かった。こう囁かれたのだ。

 「一仕事したんだから、今日の飯はマグロにしてくれよ」

 ハッとしてその人の顔を見ると、にんまりと笑った目が、猫の目の色と同じだった。その場で抱きついて、全身を撫でまくった。とんだ痴女だ。

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 もっと猫の支配下になっちゃった感を出したかったのですが、就活生ドリーム満載のお話になってしまいました。

 でも、猫に親切にしたら、良いことが返ってくるって本に書いてあったし……(言い訳)