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どこまでも歩けるはずなんだ

読書と仕事と妄想と。ゆるゆるやっていきたいです

モラトリアムの部屋で【下】(創作小説)

 

 今日は玻似子の帰りが遅い。年末に近づくと(と言っても十月の終わりくらいからだが)、彼女は毎晩のようにパーティーに呼ばれる。彼女は人脈がやたらと広く、趣味でやっているような仕事を急にやめても困らないくらいパトロンのような人がいるらしい。
「金持ち連中のご機嫌取りに行ってくるわ。いい子で待っててね、お土産もらってきてあげるから」
「私は小学生じゃないんだけど。晩ご飯はいらない?」
「あんたのご飯好きだから、いる」
「太るよ」
「へーきへーき、明日はプチ断食するから」
 こんな会話をして、玻似子を見送った。彼女の晩ご飯は、お夜食程度の軽いものでいいだろう。そう分かっていても、玻似子が必要としてくれた物に手は抜きたくない。本当に奴隷根性だなと、自分でも呆れる。私は手の込んだサンドウィッチを作り上げ、宝物のように冷蔵庫にしまい、テレビを観たり本を読んだりして過ごした。


 玻似子は、零時を回る頃に帰ってきた。ふと窓を見下ろすと、この界隈にはまるで似合わない高級車が走り去るところだった。
「おかえり、サンドウィッチあるよ」
「わーい、ありがと」
 玻似子は、コートをぞんざいに脱ぎ捨て、ドレスのままでサンドウィッチをくちゃくちゃと食べ始めた。私は紅茶を淹れて、向かいに座った。
「玻似子がどんな世界の住人なのか、私未だによく分からないよ……」
「ま、あんたにはちょっと刺激が強いかもね? 知りたいなら連れ込んでやろうか」
「怖いからやめとく。玻似子と一緒に暮らしてるだけで充分」
「そうでしょうね」
 彼女は肩をすくめた。「人から求められるのも、そんなに幸せじゃない。だから、あんたには求められる人になってほしくない」
「玻似子には?」
「えっ?」
「私は、玻似子にとってもいらない?」
「……意地悪ね」
「そっちこそ」
 私たちは少し真顔で見つめ合い、そしてククク、といたずらっ子のように笑った。私と玻似子は共犯関係。この部屋から出るまで、きっと気ままな猫のように暮らしながら、お互いを独り占めし合うのだろう。友情と言う名の、美しい皮を被って。そして、永遠にモラトリアムのような、気怠く名のない世界を生きるのだ。

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 初めて百合書いたので緊張してます……これ百合になってるでしょうか。心配です。高嶺の花×平凡女子が実は共依存っぽい感じになっていた、というお話でした。ちゃんちゃん。