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どこまでも歩けるはずなんだ

読書と仕事と妄想と。ゆるゆるやっていきたいです

しにたい日に、傘

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*暗いし鬱っぽいです。そういうのを読むと不愉快な人、気分が落ち込みそうな人は、どうか読まないで下さい。お願いします。

 

 今日の昼下がり、キャリアセンターの片隅で、私は履歴書を書いていた。大学指定の、無駄に書く欄が多いやつだ。本当は一昨日、書こうとしていたのだが、最後の最後でミスをしたので書き直していたのだ。

 志望動機以外はあらかじめ作ってあるので、あとはそれを書き写すだけである。ぼんやりしていると書き間違えてしまうから、ゆっくり、慎重に書いた。だけど、書けば書くほど、喉から胸にかけて何かが詰まっているような気がしてきて、呼吸は苦しく、気分も暗くなってきた。「あ、きたな」と思った。

 

 私は、突発的にしにたくなることがある。本当にしぬわけじゃない。ただ、しにたいなぁ、としみじみ思うだけだ。寒い日に息を吐き、白くなったのを見て「ああ冬だなぁ」と思うみたいに。息が苦しくて、笑う気も話す気も起こらなくなるので、体はけっこうつらい。でも、その症状を引き起こしている私の「心」というものは、案外のほほんとしている。この現象に病名をつけるなら「自律神経失調症」といったところだろうが、別に死にゃあしないのだから、治す必要は感じない。そういう体質なんだ、と思うことにしている。

 

 しにたいなあと思いながら講義を受けた後、駅に向かって歩いた。今日はこれで終わり。ぽつぽつと雨が降っていた。バッグの中に折り畳み傘は入っていたが、これくらいなら大丈夫、と傘を差さずにいた。歩けば歩くほど、雨脚は強くなった。でもめんどくさいのでそのままにしておいた。

 向こうから、高級そうな黒いコートに、優しい黄色の傘を差した人が歩いてきた。どこかで見たことがあるな、と思っていると、その人はゼミやら就活やらで会わなくなっていた、顔見知りの学生だった。

「あっ、久しぶり」と私が言った後、彼女は「ねえ、傘ないの? 私の貸してあげるよ。次会った時に返してね」と言った。

「はっ? いや、いいよ、大丈夫だから。そっちだって困るでしょう」

「大丈夫じゃないよ! 私は大丈夫、友達と一緒に帰るから」

 いやいや、と遠慮したが、彼女は私に傘を渡し、そのまま颯爽と大学に向かって歩いて行った。折り畳み傘を持っていることは言えないままだった。コート同様、高級そうな傘は、ずっしりと重みがある。

 

 借りた傘を差しながら駅に向かって歩く。私は、しにたいなぁと思いながらも、何だか愉快になっていた。みじめな人間に差し出された善意。まるでO.ヘンリーの短編みたいじゃないか? そういえば最近読んでない、また読み返そうかな。