どこまでも歩けるはずなんだ

読書と仕事と妄想と。ゆるゆるやっていきたいです

何でもない日

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「彼女と結婚したい……」
谷川は、普段の彼らしくない表情で言った。夕日が差し込む放課後の教室で、私は内心「どう反応せぇっちゅうねん」と思いながら、彼の憂鬱な顔を見つめていた。
「あー、彼女とずっと一緒におりたい、ほんまに好きすぎる……」
それならば私に惚気る時間を減らして、その彼女に会えばよいのではないかと思うが、言わない。うんざりもしているが、正直に言うと、クラスの上位カーストの人が、常に隅っこにいる私に弱った顔を見せるのが楽しいのだ。


谷川昴は、爽やかな容姿と陽気な性格、ほどほどの成績を持ち合わせた、クラスの人気者だった。男子はほとんど友達で、女子の中には少なからず彼に片思いする子もいる。谷川の彼女は、これまた可愛らしい容姿と華やかさと優しさを持ち合わせた、谷川の女版とでも言いたい感じの人だ。
私は、いつでも教室の隅で読書をしているか、ノートを書いていた。ノートの表紙には「倫理」と書いてあるが、私は倫理を選択していない。それは、私がひとりで妄想している、物語を書くためのノートだ。どうせ私のところに来る人間はいない。

だがしかし、私のところにやってくる、物好きな人間がいたのである。
それが谷川昴だった。

谷川はイメージにそぐわず本好きで、毎日のように違う本を持ってくる私を気にしていたらしい。席替えで、席が前後になったときは、ホームルームが始まる前にいつも「加納さん、今日は何持ってきてるの?」と聞いてきた。何だんだこいつは、と訝しく思っていたが、本の話をする彼を見て、こいつは単純に本好きなんだなということが分かった。そのうち、本の話だけでなく、なぜか彼女の話を聞かされることが増えてきた。小説のネタにできるから、こちらとしてもわりと歓迎だ。


「とりあえず……」
私は谷川を見ながら言った。「生き急ぎすぎやろ。何で付きあってるだけなのに結婚を妄想し出すの。そしてそんなに好きな人と今付きあってる幸せを貪らないの」
「貪るってさらっと使う人初めて見たわ」
「私の言語センスはともかく」私は、少しだけ時間をおいてから言った。「……肩揉みでもしたろっか? 今の谷川くん、姿勢悪い」
「ほんまに? ありがとう」
谷川の堅い肩に触る。指を滑らせて、凝りを見定め、そこを徐々に強く押す。すると彼は「ぅお」と声をあげ、「あー、気持ちいい。将来は小説家かマッサージ屋やな」
「マッサージ屋開いたら来てくれる?」
「一番に行ったるわ」
谷川は振り返り、にっこりと笑った。

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久しぶりにストーリー性のある夢を見た。こんな青春を送りたい人生でした。私は今、よほど少女漫画的な萌えを求めているようです。誰かください。