ごちそうさま!ー米原万里著・佐藤優編『偉くない「私」が一番自由』感想

米原万里が亡くなって、10年が経つ。

つまり彼女の書いたものは、2006年から時が止まっているのであるが、なぜか古さは感じさせない。たっぷりのユーモアと鋭い観察眼が成せる技なのか。
ゲラゲラ笑って、でも人間について深く考えさせられる。残念ながら私の語彙では、こんな陳腐なことばでしか彼女のエッセイを表現できない。そうだなあ、食べ物に例えるならば、ボルシチに似ていると思う。こっくりとした、滋味豊かな味がする。


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さて、この『偉くない「私」が一番自由』は、米原万里と交流があった佐藤優が、ロシア料理フルコースになぞらえて彼女の名エッセイを選んだものだ。

あとがきでは「米原万里さんとは10回ほどしか会ったことがない」とあるが、米原万里への敬意・親愛をひしひしと感じる本だった。どれも非常に面白く、米原万里の思想の基本、生い立ち、愛したものを一冊で何となく分かるようになっている。合間に挟まれる、佐藤優によるロシア料理の解説も興味深い。

ビックリしたことは、メインが何と米原万里卒業論文だったこと。
人気の高い成熟されたものではなくて、あえて米原万里の原点が垣間見える、荒削りな文章を選んだところに、佐藤優と編集者の独特なセンスが感じられる。

卒業論文は、誤字脱字は多かったけれど、文章の才能と着眼点の豊かさが感じられる、とてもスリリングで面白いものだった。私はロシア文学にまったく詳しくないし、詩なんて何も知らないけれど、それでも引き込まれる力強さがある論文だった。


とても美味しくいただきました。
ごちそうさま!