ドラゴンになったような気分-「マンハッタンのドラゴン」(フランチェスカ・リア・ブロック『"少女神"第9号』所収)感想

  元々フランチェスカ・リア・ブロックという作家は知らなくて、この本はジャケットに惹かれて買った。黄色とピンク。ハートに涙に星に十字架。安モンの化粧品に、フライドポテトと甘ったるさを混ぜた匂いを感じさせる、すごくティーンズ小説らしい感じが、好きだな、と思った。

 本ってカバーもわりと重要だと思うのだけど、他の本好きさんはどうですか?

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 小中を通して「ここに馴染めない」という思いをずっと持っていたからか、少女小説はアメリカやイギリス等の翻訳ものの方が好きだ。何だか肌に馴染む。今、私は21歳で、少女と呼べる歳ではないけど、それでも、この短編集はすごく馴染んで、夢中になった。これは「少女小説」ではあるけれど、何歳でも、どんな性別の人でも、読めるのではないかと思う。LBGTsやドラッグも出てくるけど。でも、安全ではない少女の世界の、痛みとか残酷さを、ファンタジックさも織り交ぜながら書いているので、刺々しい感じではないです。むしろ暖かいような気がする。

 

 この短編集には、9つの物語が収められている。どれも好きなので、全部感想を書き綴っていきたいけど、1万字を超えてしまうのでやめます。一番好きな「マンハッタンのドラゴン」の感想だけにします。

 「マンハッタンのドラゴン」は、レズビアンカップルに育てられている少女タック・バッドの冒険の物語です。アーティストな二人のママに愛されてのびのびと育ってきたタック。しかし中学校に行くと(小学校は行ってない)、「お母さん二人なんて変」と言われてしまう。「どうしてあたしには、まともなパパがいないんだろう?」と思ったタックは、「1981年にサンフランシスコのピンク・ジンジャーブレッド・ホテルでタックを妊娠」と書かれた絵葉書を手掛かりに、自分のパパを探しに行く。

 

 タックは、お母さんのブーツ貯金からお金を拝借し、その日のうちにマンハッタンからサンフランシスコに行っちゃうのですが、すごい行動力ですよね。まだ12~13歳なのに、飛行機の予約パッと入れて家出するという。

 街を散策して、ホテルの名簿を見て、父親を探しているのに、お母さんたちを思い出してしまう。ミステリーのような瞬間もあり、切ない青春物語でもあります。最後に事実を知った時は、少し泣きました。大切な人は、すぐそばにいるんだよね、と。

 私が一番好きなシーンは、タックの両親、イジーとアナスターシャが二度目のデートをするシーンです。お互いにセクマイである二人は、その日に初めて、本来の姿で会い、イジーが「ドラゴンになった気分よ、アナスターシャ」と言います。ドラゴンは聖なる動物で、魔法の力を持っている。二人でいれば、まるで魔法にかかったような人生が待っている、みたいな、そんな気分を表している、素敵なセリフだと思いました。自由さと力強さがあるなぁと。