あなたの腕の中で

 窓の外を見遣ると、紫、青、ピンク。紫陽花が雨に濡れながら咲いていた。紫陽花に感情はあるのだろうか。どこかで、「きれいだよ、がんばって咲いてね」と言われたチューリップは大輪の花を咲かせ、「おまえなんてさっさと枯れてしまえ」と言われたチューリップは咲かずに枯れてしまうという実験の話を聞いたことがある。言葉がけでチューリップは自信、あるいは自己嫌悪を抱くのなら、紫陽花だって感情があっても不思議ではないだろう。同じ紫陽花の花壇でも、なごやかなグループとギスギスしたグループがあるのかもしれない。

 

 あなたはわたしを、後ろから抱きしめる。あなたはけして大柄ではない。むしろ男性としては小柄な方だ。背はわたしと同じくらいか、少し低いくらい。けれど、あなたの腕や胸はたくましく、温かい。首筋に息がかかってくすぐったい。あなたもわたしも、何も話さないけれど、うなじで感じる呼吸と体温と鼓動は、どんな言葉よりも雄弁にあなたの存在をわたしに知らしめる。わたしはあなたから逃げられないことを知っている。あなたも知っているはずだ、わたしには優しい拘束はいらないことを。

お題「最近見た夢」

 

詩のような夢を見た。一体どんなシチュエーションなのか、自分でも全く分からないが、起きた時の気分は悪くなかった。