満月心中【下】(創作小説)

 

 ―――小枝子のすすり泣きが聞こえた。死後の世界に、一緒に来れたのだろうか。


 私は目を開け、身体を起こした。そこは、駅のホームのベンチだった。駅員さんがおろおろしながら小枝子を慰めている。


「お嬢さんたち、何があったんだかあたしにはさっぱり分からないけどね、あんなとこで跳ねちゃあだめだよ、一歩間違えば死んじまうよ。死んだらみんな終わりだよ、寿命が来るまで死んじゃあいけねえよ」


 どうやら私たちは、心中に失敗したらしい。


 駅員のおじさんが「家には連絡しないでおくけどねえ、さっさと帰りなさいよ」と去った後、小枝子は泣きながら言った。


「ごめんね、あたし、やっぱり死ぬの嫌んなって、飛び込もうとした君恵を引っ張ったんだ。そしたら、君恵、床に頭ぶつけちゃって、気絶しちゃって……あたし、君恵のこと殺しちゃったかと思って泣いてたら、駅員さんが来て……。


 ごめん、言いだしっぺはあたしなのに、生まれ変わるまで待てないよ。あたし、今君恵を一緒にいたいんだって分かったの、本当にごめんね」


 私は、小枝子の涙をぬぐった。
「謝らないで、正直に言うと、私も、生まれ変ったって、今の小枝子と出会えないんなら死んだ意味ないんじゃないかしら、なんて考えてたとこだったの」

 

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 来世を信じて死を選ぶ少女たちは美しいかもしれないけれど、「生きててナンボ」という私の価値観が勝りました。人は、色々な偶然が重なってできあがっていくのだと思います。だから、生まれ変わっても、今、好きになった人とは、お互いに全く違う人になるのではないでしょうか。

 相手の性別、人種、宗教、その他諸々、世間からの圧力によって想いを諦める人が居なくなるよう、願いつつ。